かい〜
かい〜
どこかから声が聞こえるよ
痒い〜
痒い〜八王子の精神病棟から脱走した私は、多摩の教会に世話になることになった。
朝の礼拝と清掃を終えたら、夕食までやることはない。
テレビを前に、呆と時間を潰す。
78:22の法則は不思議だ。
地球でいえば、海が占める面積は78、陸の面積は22である。
銀行経営の理想的な状態は、貯金する層が78、借りる層が22。
これは「ユダヤの商法」といい、全てのビジネスの基本となっており、
またこの法則に従えば高確率で成功するといわれている。
また、世界の金持ちの層は22%、中流以下の層は78%
その22%の金持ちは、世界の資産の78%を持ち、
中流以下78%の層は、世界の資産の22%しか持たない。
正方形の中いっばいに円を描いたとする。
この時の円の面積は78、残った正方形の面積は22である。
さらに、空気成分もだいたい酸素等22、窒素78で構成されている。
人体もほぼ78が水分、他が22である。
私も78:22の法則に従って、金玉78:自分22の割合で生きようと決意した。
金玉は、宇宙の中核だ。
宇宙時間・宇宙空間そのものだ。ビッグバンを起こし、
膨大な数の生命が生まれ、死んでいき、また生命が再生されていく。
軽率に揉んだり引っ張ったりしてはいけないのだ。
いままで、自分99%:金玉1%の割合で生きてきた。
これがいけなかった。
私という存在を、俗にまみれた陸(22%)とするならば、
金玉を聖なる海(78%)にするのが万物の法則に従うということだろう。
「という訳で神父、火掻き棒を貸して頂きたい」
「なにするんだ?」
「裏山に立派なススメバチの巣がありますでしょう。あそこをひっかきまわすのです」
「な、何を始めようとしてるんだ。君は」
「金玉を蜂に刺してもらうのです金玉の割合を78%まで拡大させます」
「真顔で言われてもなあ……あのな、君の管理は私に一任されているのだよ。
君がこの教会に来たのは金玉を膨らますためか? 違うだろう。目を覚ましなさい」
「目を覚ますのはあなたのほうですよ。あの絵画をよく見てください。
ゴルゴタの丘を登るキリスト。彼じしんを22としたら、
背負う十字架の大きさは78。
語らずとも、行為そのものが宇宙真理と符号している。そこであなただ。
自分の胸にある、金玉サイズの十字架を再確認してください。
ちっぽけだ。なんの覚悟も感じられない。なのに聖人ヅラだ。
みみっちい十字架、みみっちい金玉のくせに」
「貴様、愚弄するか」
「現世に、金玉以上に神の世界に近いものがあるでしょうか。
私は大海のように膨らんだ金玉を、少宇宙を、背負って生きたいのです」
「サイズの問題ではないんだよ。君のいう78:22の法則の正体だが、
こういう解釈はどうだろうか。
先程の正方形内の円の話だが、円を悪意・我欲と仮定しよう。
この面積は言うまでもなく78。
円を囲うように残った正方形の残り面積は22、
これを善意や理性とする。わかるか。
つまり、78:22の法則とは、自己に内在する圧倒的な悪意・我欲を
制しながら生きる人間の内面そのものを現しているんだ。
悪意・我欲が膨満すれば、正方形そのものは瓦解する。
つまり自我の崩壊を意味する」
「てめえ金八先生みたいなこと言ってんじゃねえよ。その円は金玉だ。
だから丸いのだ。地球も丸い。おだんごも丸い。
正方形の残り面積は金玉を守る為にある。つまり私じしんだ。
私はパンツだ。サポーターだ。金玉を守るためだけに存在する」
「駄目だ!! コイツと話していると気が狂ってしまう!!」
「おまえも聖職者の片割れなら金玉をでかくするべきだ!」
「うるせえ! キリストがいつ金玉を背負った!」
「まだ気づかんのか!! 十字架とは、金玉の抽象表現だ」
「イエス! ザッツライト! OK!! ヨドバシカメラ!」
神父は獣のような雄叫びを上げつつ、教会近くの滝壺まで駆けていき、
以来、私の前に現れることはなかった。
私の金玉拡大計画がはじまった。イヴだった。
金玉の部分だけ切り抜いた全身タイツをまとい、
夜霧にけぶる森に足を踏み入れる。
下からの冷風に金玉が縮こまる。
私は後方に尻を突き出し、ブッと気合いを入れる。
すさまじい大きさの蜂の巣である。
私は火掻き棒でひっぱたく。
激怒した蜂が大挙。私はクイッと金玉をさしだす。
「いでででででででででで!!!」
獰猛な蜂の毒針が私の金玉に集中砲火を浴びせる。
ぷく〜
おもちのように膨らむ金玉。
ぷく〜
ぷく〜
あ、いい感じ。うん、うんうん。うん。
ぷく〜
そう。ね。うん。こんな感じ。うん。
ぴく〜
「いででででで!! しかしムグ〜、いい感じだウンウンウン、
蜂、バッチコイ
頭上に光る月を、巨大な影が隠した。
見事な巨大金玉である。
超・巨大金玉は私に向かい、重々しげに、ゆっくりと、倒れてきた。
「ぐげっ」
自分の頭蓋が砕かれる感触。
視界は急速に回転する。
金玉ごと、坂道を転がっているのだ。
「うわっ」「なんだ」民衆のどよめき。
巨大な金玉と化した私は、人間を弾き飛ばしながら繁華街を突っ切った。
ある少年が、手にしていたタコヤキをひとつ、落とした。
少年が拾おうとした瞬間、
「ウギャー!!!」
時速100キロを超えた私(金玉)と激突し……
すいません。もう勘弁してください。